オゾン物語 オゾンの利用……酸化とは何か

オゾンの利用……酸化とは何か

オゾンの利用を考える上で重要なことは「オゾンは強力な酸化力を持つがこの力を何かに利用できないだろうか」という順序で考えてみることです。

実際既存のオゾンの応用というのはその酸化力を利用したものがほとんどです。オゾンの代表的な利用分野に殺菌、脱臭、漂白がありますが、これはオゾンの酸化力を利用したものです。その他有害物質の無害化、新物質の合成、材質の表面改質、半導体洗浄なども基本的にはこの酸化力を利用しています。

必ずしも酸化力を利用したと言えないものにオゾン医療やアコヤガイの放卵促進などがありますが、これらについては稿を改めてお話することとして、ここではこのオゾンの酸化力というものについてやや突っ込んで考えてみたいと思います。

先ず酸化とは何かというところからお話を始めます。(以下はオゾンの利用に関して直接関係あるものではないので関心のない方は読み飛ばしてください)

最も単純には酸化とは「化学的物質が酸素と化合する」ことです。たとえば炭(C)が燃えるのは酸化で、その結果炭酸ガス(CO2)が出来ます。

酸化と逆の作用が還元です。還元とは「酸素を化学的物質から引き剥がすこと」です。

現在では化学者達は酸化と還元の意味をもっと広く捉えていて、酸化とは「化学的物質から電子を奪い取ること」で、還元は「化学的物質に電子を与える」ことと解釈してますが、ここでは酸化と還元を前記の単純な意味に捉えておきます。

先ず酸化と還元が宇宙や地球の中でどのように起きているのかということを考えてみます。

地球において常時最も大規模に行われている酸化は動物の呼吸と腐食及び有機物の燃焼においてです。一方還元は次の図にしめすような植物の光合成によってです。

光合成

これを仲介しているのが大気中の炭酸ガスです。つまり炭酸ガス(CO2)は植物により還元されて、炭素(C)は有機物の中に取り込まれ、酸素は大気中に放出されます。動物は酸素を吸って体内で有機物を酸化させ結果として炭酸ガス(CO2)を吐き出します。実際に植物や動物の体内で行われている化学的反応は極めて複雑なものですが、酸化と還元の観点からみると「植物が太陽のエネルギーをもらって炭酸ガス(CO2)を還元して有機物を造り、動物はその有機物をもらって酸化を行いエネルギーを得て、炭酸ガス(CO2)を放出する」といえます。

さてここで地球の歴史をもっとどんどん遡ってみて、過去の地球での酸化、還元はどのようだったかを考えてみます。

先ず地球の誕生の頃です。

地球は原始太陽系の中で微惑星(微小な惑星)が衝突、合体を繰り返して生まれたと言われています。

この地球誕生の元となった微惑星はどのように出来たかというと宇宙に漂うガス状の物質(星間ガス)から出来たと考えられます。

次は宇宙における元素組成です。微惑星もこのような組成に近い組成の元素が集合して作られたと考えられます。

宇宙での元素存在比

酸素は前にもお話したように宇宙で3番目に多い元素です。そして金属類やケイ素と強力に結びつく(酸化する)性質があります。

そのため星間ガスから微惑星が出来る際に酸化反応は他の反応に先駆けて始まると考えられます。

また酸化反応の起こる順序と言うのは酸素原子1個あたりの化学的な結合エネルギーの高いもの(燃焼熱の大きい)順から起こると考えられます。

上の図に記載されている元素では酸化マグネシウム(MgO)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化鉄(FeO)、水(H2O)、炭酸ガス(CO2)、亜硫酸ガス(SO2)等の順です。

やがて酸素はこういう酸化反応に消費されて全く単体の分子では存在しなくなります。

微惑星はこのような酸化物を主成分として作られるでしょう。参考になるのは地球に落ちてくる隕石で、これは地球の誕生当時の微惑星と同じような組成を持っていると考えられます。理化年表によると、隕石の大部分を酸化ケイ素(SiO2)及び金属酸化物が占めています。酸化物以外では硫化物(FeSなど硫黄との化合物)、炭酸塩(MgCO3など金属と炭酸CO3との化合物)、燐酸塩(燐酸PO4との化合物)等あります。

さて、微惑星の衝突合体により地球が成長すると、温度が上昇し、溶融状態になります。その際炭酸塩からは炭酸ガスが放出され、水も水蒸気となります。また巨大な重力が発生するため、その構成要素が重い順に内側から外側に向けて再配置されます。

酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(FeO)などは地殻を造ります。次は地球の全地殻の主成分組成です。

地球・全地殻の主成分組成

水(H2O)は地球の表面に出て海を造り、炭酸ガス(CO2)は地球の外側にまとわる大気となります。

次は参考までに惑星の大気の元素組成です。

惑星の大気組成

今でこそ地球の大気は窒素と酸素がほとんどですが、地球が誕生してしばらくたった頃(まだ生命の誕生してない頃)はお隣の星の金星や火星と同じように炭酸ガスが主成分であったと考えられます。(ここで木星、土星などの大気に何故炭酸ガスがないのか疑問に思われるかも知れません。これらの星の大気に炭酸ガスが無いのはこれらの星が非常に低温で、誕生当時にはあった炭酸ガスは凍ってドライアイスのかたちであるか、あるいは炭酸塩のままの状態にあるからだと思います)

さて我らが地球のそれからの話ですが、次は地球の大気組成の変化を推定したものです。地球の大気組成に大きな変化が生じるのは誕生以後20億年以上後で光合成をする生物が繁栄しだしてからです。

地球大気と酸素発生型光合成生物の歴史

光合成生物により炭酸ガスが還元され続けて減少し、変わって酸素と窒素の大気に置き換わっていきます。そして美しき青き地球が育つのです。

地球

ここまでは地球を舞台とする自然界の酸化と還元のドラマです。

やがて人類が出現し、煮炊きに火を用い、焼畑を行い新たな酸化を地上に持ち込みます。

しかし、一方では農業や植林を行い植物の還元作用を積極的に利用することも始めます。

この様にして産業革命に至るまでは地球では酸化と還元がほぼバランスのとれた形を保持して来たわけです。産業革命がこのバランスに大きな変化をもたらします。

地球の生命が10億年もかけて溜め込んだ石油、石炭を高々1000年程度で酸化させようとしているわけです。1000年というのは10億年の100万分の1です。

炭酸ガスは地球における酸化と還元のバランスの尺度と言えますが、その増大は単に温暖化の問題ではなく、地球全体の酸化と還元のバランスが崩れていることの警鐘としても捉えるべきと思います。