オゾン物語 オゾン層の話……地球のオゾン層の歴史

オゾン層の話……地球のオゾン層の歴史

オゾン層というのは今でこそ地上から高度15~30km程度のところにあり、生命に有害な紫外線を遮ってくれています。でも過去の地球ではどうだったのでしょうか。

遠い昔にはオゾン層は地球にはありませんでした。生命に有害な紫外線が地上に降り注ぎ、地上はとても生命が生きていける環境ではなかったのです。

大気中に酸素が放出されるとともにオゾン層が形成されていきます。しかし最初はオゾン層は地上付近にあり、地上の紫外線の強度も高く、生命はしばらく海洋にとどまり、オゾン層がしっかりと形成されてから生命は地上に進出してきます。

このようなオゾン層の歴史について、次にやや詳しいお話をします。

地球の酸素は植物の光合成により生み出され、またその酸素からオゾンも生まれています。

オゾン層の形成

ですから地球での光合成の歴史をたどれば地球のオゾンの歴史をたどれます。

20億年以上前に、シアノバクテリアという光合成をするバクテリアがある細胞の中に入りこんで共生をし、やがて葉緑体になったということです。このシアノバクテリアの顕微鏡写真は、Brian Speerさん(写真左)のHPからです。

シアノバクテリアの顕微鏡写真

やがて藻類が海中に繁茂し、酸素分子を海水中にそして大気中に蓄えていきます。

次は三重大学藻類学研究室による海中のカジメ(昆布の仲間)の写真です。

海中のカジメ

次は筑波大学生物科学系の井上勲さんによる地球大気の酸素濃度の変化を示す図です。

46億年と言われる地球の歴史の中で陸上植物の誕生は数億年前ですが、それまで20億年以上にわたり、藻類が大気中にせっせと酸素分子をため込み、生命の陸上進出の条件を整えていたのです。

地球大気と酸素発生型光合成生物の歴史

次はツクシの仲間でロボクという木の森林です。陸上にあがった植物はこのような巨大な樹木の大森林を作り、これが後に人類に産業革命を可能にさせた石炭のもととなります。不思議なのはこのような陸上の植物は生命の歴史の中でなぜ空気中の酸素が増えてから現れたのかと言うことです。植物には酸素はそんな必要ないはずなのに何故? ということです。

ツクシの仲間でロボクという木の森林

この謎についてはあとで私の考えを話したいと思いますが、ひとまず酸素とオゾン層の話に戻ります。

さて大気中の酸素は地球の歴史の中で0から現在の21%まで最初は非常にゆっくりとそして最後の数億年でやや速やかに増大してきましたが、その間のオゾン層の変化がどうだったのでしょうか。

さてもう一度オゾン層がどのようにして出来るかを振り返って見ます。

オゾン層は地球の上空で酸素分子が紫外線により酸素原子となり、酸素原子が酸素分子と結合して出来るものです。

このようなオゾンの生成は地球の歴史の中で酸素分子が海中で作られ大気中に放出されると同時に開始されたはずです。ところで最初は酸素分子濃度が極めて薄いのでオゾンもごくわずかです。しかし酸素分子濃度がある程度高まるとオゾンの生成が激しくなり、地球にオゾン層が形成されることになります。ところでそのオゾン層は酸素分子濃度が薄いうちは地上に近いところで形成され、酸素分子濃度が濃くなるほど高いところに移動します。なぜかというと酸素濃度が薄いうちは酸素分子を分解するエネルギーの高い紫外線が地上近くまで到達し、地上付近で多くのオゾンが生成されるためです。酸素分子濃度が高くなると上空でほとんどの紫外線が吸収され上空にオゾン層が形成されることになります。

オゾン層が地上付近にあった時期は地上のオゾン濃度は高いと考えられます。

またその時期は地上の紫外線量もかなり高かったと考えられます。

次は私が試算した酸素濃度(=酸素分子濃度)と地上のオゾン濃度及び紫外線量の関係です。

酸素濃度に対する地上の紫外線強度比とオゾン濃度

これで見るように酸素濃度が3%程度に達するまでは地上のオゾン濃度も紫外線量も現在に比べてかなり高かったと考えられます。

この酸素濃度が3%程度に到達した時期と言うのは数億年前でどうも陸上に生命が進出する時期と一致しているようです。

参考までに次は森洋介さんのホームページ(リンク別窓)より拝借した地上の酸素濃度とオゾン層の厚みの変化を示す図です。

地上酸素濃度とオゾン層の厚みの変化

さて、以上のことから何故ある程度まで大気中の酸素濃度が高まるまで植物が地上に上がれなかったかという謎の説明として次が考えられます。

「大気中の酸素濃度がある程度(2~3%程度)まで高まるまで地上の紫外線強度とオゾン濃度が高く、地上は生命にとって厳しい環境であったため生命は地上に上がれなかった」

紫外線とオゾンがともにある環境というのは非常に酸化性が高く特に発芽したばかりの植物や植物の生育を支える微生物にとっては厳しい環境であり、それが生命の陸上への進出を妨げていたと考えられるのです。

植物がが地上に上がれなかった理由としてこれ以外に大気中の有害不純物の存在やオゾン層破壊物質(メタンなど)によりオゾン層の形成が妨げられていたこと、炭酸ガスの濃度が高く地上の温度が非常に高かったことなども考えられます。